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東京地方裁判所 昭和29年(ワ)10533号 判決

原告 鹿島建設株式会社

被告 萩原鉱業株式会社

主文

被告は原告に対し金六九八万五、四三七円およびこれに対する昭和二九年一二月一〇日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用は全額の三分の二につきこれを平分し、その一を原告、その一を被告の各負担とする。

本判決は第一項に限り原告において金二〇〇万円の担保を提供するときは仮りに執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、「被告は原告に対し金一、九六二万五八九五円およびこれに対する訴状送達の日の翌日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、その中、金一、〇九八万六、一九一円およびこれに対する遅延損害金の支払請求についての請求の原因として、次のとおり述べた。

「第一(請負契約における協議約款に基く請求)

一、請負契約と協議約款。仮設建造物建設についての特約。

(一)  原告は、昭和二七年一二月三日、被告の注文により、被告経営の秋田県宮川鉱業所における鉄鉱露天堀工事を請負い、契約期間三ケ年、契約単価鉄鉱石一屯当り三五〇円(冬期二割増)、出鉱量基準月一万屯、請負代金支払方法一ケ月単位で出来高払い、施工計画(工事内容)は、(1) 一年間の鉱石堀削予定区域を定めて四月、五月の二ケ月間に先ずその表土を除去し、五月以降鉱石を採取する、(2) ベンチ工法を採用し、〈1〉地形勾配を勘案して適当間隔に三ベンチを入れる、〈2〉先ず爆破大割したものを各ベンチ地盤でピツクを使用して規定寸法に小割し、〈3〉これをベンチ上の軌条で小運搬し、それぞれ捲卸ろし、斜道へ移行して貯炭場へ移すこととし、さらに次のような協議約款および特約が成立した。

(二)  協議約款

(1)  契約単価は、契約成立後三ケ月経過した後は、物価労銀その他経済事情の変動により不適当と認められるときは、双方協議の上で更改する。

(2)  鉄鉱厚五米、表土厚一米、鉱石重量一立方米二屯の基準見積りによる出鉱量に変更があつたときは、協議の上、数量、単価を変更できる。

(3)  注文者は必要ある場合には工事内容を変更できる。

(イ) この場合、契約単価、出鉱量、工期を変更する必要があるときは、双方協議する。

(ロ) 工事内容変更により請負人が損害を受けたとき注文主は賠償しなければならない。その賠償額は双方協議して定める。

(4)  不可抗力その他請負人の責によらない事由によつて、工事の進行に支障を生じたときは、

(イ) 協議の上、出鉱量、契約単価の変更、工期の延長をすることができる。

(ロ) 請負人に損害を生じたときは双方協議の上処置するものとする。

(5)  本契約に規定のない事項は必要に応じて双方協議の上定める。

(三)  特約

労務者用宿泊および浴場、社員合宿、コンプレツサー小屋等の仮設建造物の建設は被告においてする。

二  協議約款の適用を必要とする事情の発生

(一)  原告は施工計画に基き四月に作業を開始すべく労務者の募集を開始したところ、被告が仮設建造物の建設を遅滞したため労務者の受け入れができず、被告の申し入れにより六月中、募集を一時中止するの止むなきに至り労働力不足した。社員合宿のできたのは七月二五日、労務者宿舎のできたのは八月一〇日、内部の電燈設備の完備したのは一〇月末頃、労務者用浴場は一一月二五日、コンプレツサー小屋の完成は九月一五日であつた。

(二)  被告が索道の開通を遅滞したため、採堀現場へ原告の機械、軌条等を揚げて据付けることができず、採堀の鉱石も輸送できない状態で、被告の鉱石破砕用クラツシヤーの据付けも遅れ、(一)の労働力の不足と相まつて結局作業開始は七月下旬となつた。

(三)  かくて作業条件良好な夏期の大半が失われ、間もなく冬期を迎えて山間深雪の現場のため平均四米余の積雪を排除しながら凍結した表土を除去しなければ鉱石の採堀ができない最悪の作業条件となつた。

(四)  加うるに、被告の指示により採鉱し易い露頭個所から採堀することとなつて表土と鉱石の同時作業を行うことになり、ベンチ工法による能率的施工計画が崩れ、爾後の工事に悪影饗を及ぼした。

(五)  被告の施設の改修遅延や故障があり、また不可抗力による損害をも生じた。

(六)  その他、労銀および現場経費が騰貴した。

(七)  以上の事情により、契約単価の変更を協議し、また原告の蒙つた損害の賠償を協議する必要を生じた。

(1)  (六)の労銀、物価の変動による契約単価の変更の具体的内容は別添の原告第五準備書面写し記載のとおり(前記約款(1) )。

(2)  以上(一)ないし(四)の事情の綜合による工事内容の変更によつて生じた損害は、別添の原告第四準備書面写し第一の二記載のとおり(前記約款(3) )。

(3)  (五)の被告の施設の改修遅延および故障による原告の損害並びに不可抗力による原告の損害は、同じく第四準備書面第一の三ないし五記載のとおりである(前記約款(4) )。

(4)  以上の外に、被告の仮設物建設遅滞のため原告の蒙つた損害として、同じく第四準備書面写し第一の一記載のようなものがある。(前記約款(4) )。

三  協議約款による暗黙の協議成立

原告は、別添の原告釈明書写し(1) ないし(11)前記載のとおりの経過をたどり、最後には昭和二九年五月一八日、被告に対し前記協議事項につき詳細な資料と計算を付して協議を申し入れ(甲第二号証)たにかかわらず、被告はこれを検討し得べき相当期間を徒過し、具体的に異議、意見を述べず、かような場合に対する約款の本旨は、「協議事項につき条理上、客観的に定まる適正価額を協議額とする」にあり、原告の申し入れどおりの事項につき、適正額たる申し入れどおりの額につき、すなわち、前記二の(七)(1) ないし(4) 記載のとおりの事項、数額につき暗黙の協議が成立した。

四  仮りに暗黙の協議が成立しないとしても、約款は、信義誠実の原則に従い、協議申し入れに対し遅滞なく応じ協議すべき義務を予定しており、協議に応じない被告は、右義務に違背し、債務不履行による損害賠償の責を免れない。しかして右賠償すべき損害は、前記二の(七)の(1) ないし(4) 記載の事項と数額がすべて右損害に変形したものというべきである。

第二(附随的工事金等請求)

別添の原告補充釈明書写し記載のとおり。」

立証として、

原告訴訟代理人は、第一号証の一ないし三、第二、第五号証、第六、七号証の各一、二、第八、第九号証、第一〇ないし第一二号証の各一、二を提出し、証人高野光春(第一、二回)、同小山内清澄、同藤村久四郎、同野沢已代作、同籾山勇太郎の各証言を援用し、乙第一、第七号証の成立は認め、第二号証の成立は不知と述べ、

被告訴訟代理人は、乙第一、第二、第七号証を提出し、証人齊藤正、同蟻川浩雄、同上島俊彦、同平光春一の各証言、被告代表者竹越龍五郎本人尋問の結果を援用し、甲号各証の成立を認めた。

理由

第一(請負契約における協議約款に基く請求)

一  (請負契約の成立)

成立に争のない甲第一号証の一ないし三、証人高野光春(第一回)、同斉藤正、同蟻川浩雄、同藤村久四郎、同籾山勇太郎の各証言を綜合すれば、昭和二七年一二一月三日、被告経営の秋田県宮川鉱業所における鉄鉱露天堀工事につき、原、被告間に、原告を請負人、被告を注文主とする原告主張のとおりの請負契約、協議約款および特約が成立したことを認めることができ、右認定を左右すべき証拠はない。

二  (協議約款の解釈)本件協議約款は、物価、労銀その他経済事情の変動、表土や鉱石層の厚さの見積りちがいの発見、工事内容の変更の必要、工事の進行支障の発生等、工事実施中の事情の変化あるべきことを予定し、即応じて契約単価を適正に協議変更し、また発生した損害を協議分担せんとするものであることは明らかである。注文主が協議に応ぜず、当初の契約条件による履行を強要することとなれば、請負人はいかなる赤字出血工事になろうとも契約を履行せねばならず、工事の現実を律し得ずして工事の完成は事実上期しがたい。殊に双方ともにそれぞれ資金を投下して施設し、労働力を集め、工事によつて採堀された鉱石の売却処分等について第三者と取引関係を生じた後においては、容易に契約を解除して工事を打ち切れない事態に追い込まれる次第であるから、かかる協議によつて契約条件を合理化し、損害を填補し工事の現実の遂行を可能ならしめることは必須の要請となるわけである。このとき協議約款がないと、協議による変更を不利とする側が、協議の義務がないことを盾に、協議に応ずるか否かを自由意思によつて決することとなり、極めて不当である。協議を双互の法律上の義務として明定し、このような事態を避けようとする協議約款は極めて合理的、合目的的であり、信義則にも適うものである。

ところで、一方が協議に応じない場合については本件協議約款に別段の定めがない。この場合に、協議約款がその実を失い、存在しない場合と同じ結果になるおそれがある。しかし、いやしくも約款が存在する以上、その合理的解釈による法規範が当事者を規律するものといわねばならない。

(一)  契約単価の変更

借地法、借家法による地代、家賃の値上げのように、法が当事者の一方的意思表示に適当価額の形成をゆるす場合の他は、契約による価額の変更は、当事者双方の協議による外はない。他方が協議を避けることが信義則上いかに不当であり不合理であつても、協議成立せずして当然に成立したものとみなすことはできないし、一方の主張する変更願がいかに客観的に適正であつても、当然にその額をもつて事を決定することができるものとすることはゆるされない。協議が成立しない限り、当初の約定額によるべきものである。

(二)  損害の分担

(1)  工事における損害の発生が、自然の災害その他当事者の責に帰すべからざる不可抗力による場合は、一方の他方に対する賠償義務は生じないから、双方協議の上で分担する他はない。

(2)  当事者一方又は双方の責に帰すべき損害の発生した場合には、その発生事由、故意過失の競合の有無、程度、損害の内容、範囲、損害額等すべてにわたり、請負工事の現実を熟知した双方が現実に即して特殊の知識経験と相互理解の上に立脚し、錯そうした事実関係を協議によつて勘案、裁量、検討、協定することが必要であつて、協議によつて事を決しない限り、損害額の決定、損害の分担は、事実上不可能の場合が多いであろう。もとより債務不履行による損害賠償の責任を訴訟によつて問う途は開けてはいるが、困難な立証問題に当面するであろうし、過失相殺事由も錯そうするであろう。

(3)  工事内容の変更が合意された場合、その変更によつて生じた損害については事情を異にする。合意変更された工事の現実の遂行によつて現実に生じた損害についてその内容と額を協議すれば足りる。本件協議約款が工事内容の変更による損害を工事遅延による場合と区別し、協議の対象を額の決定にしぼつて規定していることからも、工事内容の合意変更そのものが協議の原因であり、合意変更を招いた、遡つた原因の錯そうは協議内容として問われていないことを汲み取ることができる。しかして、協議の不成立が当事者一方の協議義務不履行による場合においては、該損害は、これを受けた側が忍受しなければならないものであつてはならず、条理に則し、信義則に従い、客観的、合理的な相当額である限り、「協議義務不履行による損害」に変形されるものといわねばならない。すなわち、誠実な協議義務の履行がありせば得べかりし相当の補償額は、協議義務不履行によつて、補償される機会を失い、一種の「得べかりし補償の喪失」たる損害として賠償請求をなし得るに至ると解することができる。

(三)  以上のように協議不成立の場合を考えると、協議約款の機能にはおのずから限度があるけれども、そうだからといつて単に民法上の危険負担の原則によつて律せられるに比して約款の存在は当事者対等の原則に基き遥かに合理的にして妥当というべく、その存在理由を失わない。なお、協議不成立の場合に、裁判所外の専門機関によつて合目的的判定が適切になされる制度も望ましい。

三  (協議約款の適用)

(一)  契約単価の変更については、協議成立前において相当額が特定できないこと前示のとおりであるから、協議義務不履行による損害に変形すべきものを欠き、暗默の協議成立が認められない限り、原告の本訴請求中、この部分は、その余の点を判断するまでもなく理論上ゆるされない。

(二)  損害のうち、工事内容の変更によるもの以外については、前示のとおり、協議が成立しなくては補償の事由も額も一方的主張の域を出ず、漠然として、協議義務不履行による確定的な損害に変形させようがなく、暗默の協議成立が認められない限り、この点に関する原告の請求もゆるされない。もつとも、協議義務不履行による損害に変形せしめることなく、直接に工事遅延その他仮設建造物の建設遅延を被告の債務不履行としてその損害賠償を請求するならば、事は自ら別であるが、それは本訴請求と関係がないし、その立証の困難であろうことも前述のとおりである。

(三)  工事内容の合意の変更による損害は、内容変更の工事を現実に遂行したことによつて生じた損害、すなわち当初の契約単価に対する現実の工事増加額なのであるから、協議が成立しなくても、協議義務不履行によつて生じた損害として変形せしめるに足る特定性を有する。のみならず、直接に基本契約上の債務不履行を理由とする損害といえないために、協議約款を根拠に協議義務の不履行を理由とする損害に変形せしめない限りその補償も賠償も不可能となる。

四  (工事内容の変更)

前顕甲第一号証の一ないし三、成立に争のない甲第二、第五号証、第六、七号証の各一、二、乙第七号証、証人高野(第一、二回)、同藤村の各証言、証人野沢已代作、同小山内清澄、同上島俊彦、同平光春一の各証言(但し、上島、平光の各証言中、措信しない部分を除く)に弁論の全趣旨を綜合すれば、工事内容の合意変更につき次の事実が認められる。証人上島、同平光の各証言中、次の認定に反する部分は措信しない。その他、次の認定を左右すべき証拠はない。

契約上の着工期の昭和二八年四月には採堀鉱区は積雪に覆われ、現場の双方責任者は、状況視察の上、着工を暗默裡に見送り、五月になつて原告側の現場責任者が入山したが、原告の労務者募集が不成績で、六月になつても容易に予定の労働力を集められなかつた。これは、宮川鉱業所が前年度の採堀工事を他者に請負わせたとき、労働条件について地元の労務者間に評判がわるかつたことも原因であるが、加うるに、山間の現場にあつて日常、労務者の寝食居住する仮設建造物建設について被告の対策が失当なことが原因となつた。すなわち本件工事のため原告の雇用する労務者を収容すべき仮設建造物は、本件請負契約上の特約として、特に被告が建設することとなつていたにかかわらず、被告は当初の段階において、前年度に使用した既存の五五坪の旧建造物を流用して当分の間に合わせようとの安易策に出たため、地元労務者の評判わるく、また原告の必要とする人数を収容することができず、六月中には原告の手配中の募集を一時中止させる事態を招いた。かくて七月にかけて原告の協力によつて辛じて一三〇坪のものができたが、完成したのは八月下旬であつて、風呂や電燈など不完全で、他に原告の労務管理に対する労務者の不満もあつて、折角入山した労務者の中から離散者が多くて定着せず、労働力の不足をどうすることもできなかつた。以上のような労務者受入れ態勢の実情の他に、原告の工事遂行に対する被告の協同態勢に不備があつて、原告の工事に必要なコンプレツサー、削岩機、ウインチ、軌条等の重量機械器具を採堀現場に搬上設置するために必要な運搬用索の開通が遅れ、また原告の採堀した鉱石を破砕精鉱し、貯鉱し、最寄駅まで運搬する被告の諸施設の整備が遅れ、これらの原因の競合の結果、原告の工事が着工されたのは八月であり、軌道に乗つたのは九月であつて、最も能率の上る夏期工事の機を失い、施工計画(工事内容)は秋期から冬期工事に変更の余儀なきに至つた。

さらに、契約上の着工期を三、四ケ月徒過したため目前鉱石生産の必要に迫られた被告現場責任者は、契約によるベンチ工法の第一工程たる一ケ年間の予定堀削区域全体の表土除去をしていたのでは、さらに二ケ月を要し、肝心の鉱石採堀がさらに遅れてしまうため、工法を変更し、採堀し易い露頭個所から適宜採堀を開始することを要請し、原告現場責任者も止むなくこれに応じ、爾後、表土を除去するにも部分的に除去しては露出して来た鉱床から採堀するという表土除去と鉱石採堀の両作業の並存する工法を強行せざるを得なくなつた。かくて能率的施工計画は崩れ、表土と鉱石との混淆その他による工事の非能率化を招いた。加うるに、採堀が進むにつれて、表土層の厚さが見積り以上に厚く、また鉱床の厚さが部分的に厚薄があつて見積り違いのあることが発見され、施工計画は一層の手違いを増し、多くの労力を必要として来た。

以上のほか、工事内容はさらに次のような作業条件の悪化に伴う変更を生じ、原告は被告の要請により工事を遂行することを余儀なくされた。すなわち、採堀現場は、山間の高地で一一月に入ると表土が凍り降雪を見るのであるが、表土が全面的に除去されていないため、原告は積雪下の凍土を除去して採鉱を継続せざるを得ず、当初の施工計画の予定した冬期作業に比して、その工事内容を異にし、著るしく能率を低下し、所要の鉱石生産のためには多大の労力を要するに至つた。

五  (暗默の協議不成立。協議義務不履行)

(一)  証人高野(第一回)、同藤村、同籾山、同野沢の各証言および被告代表者竹越竜五郎本人尋問の結果(措信しない部分を除く)、これらの証拠によつて成立の認められる甲第二号証、証人斉藤、同小山内の各証言に弁論の全趣旨を綜合すれば、次の事実が認められ、被告代表者本人尋問の結果中、右認定に反する部分は措信できないし、他に右認定を左右ずべき証拠はない。

原告は、協議約款に基き、

(1)  昭和二九年三月末頃、被告の社長萩原勇次が工事の強行を予定し同年度増産計画協議のため宮川鉱業所に入山した機会に、原告取締役野沢已代作、原告宮川出張所長高野光春らによつて協議を申し入れたが、萩原社長はこれに応ぜず、拒否の態度を示し、

(2)  同年四月中、あらためて野沢、高野および原告営業部長籾山勇太郎らによつて、被告本社に交渉し、「御願書」なる詳細な説明と数字を示した協議申し入れ書(甲第二号証)を提出したのに対し、被告の常務取締役竹越竜五郎が責任者として応待したが、同人は本件請負契約成立後に入社し、現地事情についての理解を欠き、原告の申し入れを強迫的な代金倍増要求と受け取り、且つ被告の経営事情がわるく、生産された鉱石は債権者の手に渡り被告としては収益に乏しい等の実情があつたところから、契約単価の据置きを要請し、その変更は採算上とうてい応じられないと拒否した。なお被告は、宮川鉱業所現地に「御願書」の検討を命じ、「一小部分に理由あり」との内部上申に基き、原告の要請は理由なしとの態度をとり、原告に対してなんら回答をしなかつた。そのため原告は同月下旬本件工事を打ち切るに至つた。工事打ち切り後、示談交渉が行われたが、一種の紛争処理であつて、協議約款に基く協議ではない。

原告は、本件請負工事のため既に多くの資金を投下して施設し、労務者を集め、工事遅延その他の悪条件下に赤字損害を大きくして行つたので、工事の全過程を通じて契約単価変更の必要を切実にし、協議により単価を現実に適合せしめ、(既済工事については損害の補償になる)、工事の完遂と請負人の信用維持を期したのであつて、時の経過とともに簡単には契約を解除できない事情に陥つた。これに対し被告は、終始、契約解除を恐れ、ひたすら鉱石の生産を要請し、契約単価の変更なくとも、原告の経済的底力が本件工事遂行による損害(ありとしても)に堪えるものとして原告に依存し、敢えて故意に協議に応じなかつたのである。

「いやしくも、契約上単価が約定されている以上は、現実により高額の工事費を要したとしても、注文主の責任ではない」として、「無理な赤字欠損工事を続けながらも契約を解除しないのは請負人の勝手だ」というのは、協議約款の存在しない場合にして言いうることであつて、いやしくも協議約款が存在しており、且つ請負人が欠損を訴えているのに、そして工事を続行させ生産された鉱石を取得しておきながら、かかる態度に出ることは、信義則に反するものといわざるを得ない。鉱石が値下りし、原告の申し入れた単価を応諾すれば被告の採算がとれないことが事実であるとしても、協議を拒否する正当理由とはならない。

要するに、被告は故意に、そして信義則に違反して、協議義務を履行しないものという他はない。被告の不履行につき被告の無過失を立証するに足る証拠はない。証人上島の証言および被告代表者本人尋問の結果も、被告の無過失を立証するに足るものではない。被告は不履行の責を免れないものといわねばならない。

(二)  本件全立証によるも、原告の主張するような暗默の協議成立を認めるに足る証拠はない。

六  (工事内容の変更による損害についての協議不履行による損害)

前顕甲第二号証、証人高野、同野沢、同小山内、同藤村の各証言に弁論の全趣旨を綜合すれば、四認定の工事内容の変更による原告の損害につき被告が協議を履行しないため原告の蒙つた損害(前示二の(二)の(3) および三の(三)のとおり)について原告の主張するところ(別添第四準備書面写し第一の二記載のとおり)は適正な相当額と認められ、被告代表者本人尋問の結果も右認定を覆えすに足る合理性と証拠力をもたず、他に右認定を覆えすべき主張立証はない。

七  (結論)

(一)  されば、原告主張の請負契約における協議約款に基く請求(第一の請求)のうち、金六九五万一、一八三円およびこれに対する訴状送達の日の翌日たる昭和二九年一二月一〇日以降完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は、理由があるものとして認容すべく、他は失当として棄却すべきものである。

(二)  右請求棄却部分といえども、本来は、訴訟による民事責任確定の問題たらしめるべきでなく、宜しく契約単価並に損害の分担につき信義則に従つた双方の協議が要請されるのであつて、その協議実施は、本判決言渡後といえども遅くはない。本件一部判決は、当審において被告訴訟代理人が、「判決を得た上でなければ和解しない」というため、その意味において和解、調停が適しないが故に、煩をいとわず判決する次第である。

第二(附随的工事金等請求)

(一)  支障木伐採許可遅延による損害賠償請求

所轄営林署の伐採許可が被告の責に帰すべき事由によつて遅延したものと認められる証拠がない。

(二)  土運車修理費支払承認契約に基く支払請求

被告が支払の承認契約をしたとまでいえる証拠がない。

(三)  倉庫明渡による損害賠償請求

被告の債務不履行を認める前提としての倉庫使用についての契約内容並びに解約明渡請求の事情について立証不十分であり、合意解約の疑もないではない。

(四)  スノーセツト架設請負に基く代金支払請求

甲第二号証に証人高野(第一回)、同小山内、同野沢の各証言によれば、原告は、昭和二八年一一月二二日、鉱区に吹雪溜りが生ずるのを防止して本件工事の進行を図るためのスノーセツト(雪除け施設)の架設を被告から請負い、手間一式三万四、二五四円を要したことを認めることができ、証人上島、同平光の各証言も右認定を左右しない。他に右認定を覆すべき証拠はない。

(五)  転石除去費支払承認契約に基く支払請求

原告主張の昭和二八年七月から九月までの間の分については、契約の成立を認めるに足る証拠がない。

(六)  結局、原告の第二の請求中、(四)の三万四、二五四円およびこれに対する訴状送達の日の翌日以降完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分のみ理由があるものとして認容すべく、他は棄却を免れない。

第三(結び)

されば、原告の本訴請求中、第一の八の六九五万一、一八三円および第二の(四)の三万四、二五四円の合計額並びにこれに対する昭和二九年一二月一〇日以降完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分に限りこれを認容し、その余の部分は棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条を仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 立岡安正)

第四準備書面

右当事者間の昭和二九年(ワ)第一〇五三三号工事金等請求事件につき原告は左記弁論を準備する。

第一、特殊事情に因る本件増加工事金

一、被告の責に帰する仮設建物完成遅延と内部施設等不備に因る増加工事金

(イ) 建設工事に着手するために要する諸種の準備〈省略〉

(ロ) 〈省略〉

(ハ) 原告は昭和二十八年四月下旬から被告の田中鉱務課長等係員と連絡の上山形県東田川郡大和村附近及秋田県仙北郡横堀村附近を労務者の募集基地として募集を強行し五月下旬より漸増し六月中旬頃、募集地先より続々現地乗込の連絡があつたが、受入不備の理由にて被告の田中鉱務課長より募集中止の申入れを受けた。

六月中旬の募集中止により原告は左記の損失を受けた。

表〈省略〉

受入設備なき現地附近に労務者を宿屋に宿泊せしめ遊ばせて賃銀を支出することは徒らに失費が嵩むのみであり、前記被告の募集中止の申入れにより既支給分を打切り損失としたのである。

(ニ) 前記宿舎の内部施設及び電灯設備の不備により、労務者の離散多く、右設備の完備するに至つた十一月二十五日迄即ち六月より十一月に至る離散労務者の数は三六〇人に達した。通常労務者の離散は極めて尠いが、この設備不備を理由とする者を、半数として(少なく)見積れば

募集費一人当り 1,000円×180人 = 180,000円

が内部設備不備による損失額である。

更に原告は前記の如く内部施設等の不備に対する応急対策として左記の費用を支出した。

名称   単位  数量   単価     金額

据風呂    ケ所   二 三、〇〇〇円  六、〇〇〇円

莚       枚 一五〇    三〇円  四、五〇〇円

六帖敷上敷ゴザ 枚   九 一、〇〇〇円  九、〇〇〇円

懐中電灯    ケ  三五   二二〇円  七、七〇〇円

同上電池    ケ 二一〇    三〇円  六、三〇〇円

カンテラ    ケ  一〇   五〇〇円  五、〇〇〇円

ローソク    本 四〇〇    七五円 三〇、〇〇〇円

合計                   六八、五〇〇円

(ホ) 前記各支出を合計すれば

六月中旬の募集中止による失費 一一二、〇〇〇円

内部施設等不備による損失   一八〇、〇〇〇円

応急対策費           六八、五〇〇円

合計             三六〇、五〇〇円

が、被告の責に帰する仮設建物完成遅延と内部施設等不備に因る増加工事費である。

二、被告の施工計画変更による工事金の増加

(イ) 〈省略〉

(ロ) 〈省略〉

(ハ) 〈省略〉

(ニ) 被告の工事内容(施工計画)変更により当初契約の工事金額と変更工事金額との間に左の如く異動を生じた。

(1)  表土除去

期    施工数量 一立米当り差額 金額

第一期 七、三七〇立米   九、二〇  六七、八〇四円

第二期   七四三、二  四九、〇〇  三六、四一六、八〇

第三期 二、二四九、二 二六三、八〇 五九三、三三八、九六

第四期 一、二五一   二五八、八〇 三二三、七五八、八〇

合計               一、〇二一、三一八、五六

注、立米とは一立方米。差額とは契約工事金額と変更工事金額との差。第一期とは、昭和二十八年七、八月。第二期とは同年九月十日より十一月四日まで、第三期とは同年十一月、十二月、昭和二十九年一月、第四期とは昭和二十九年二、三、四月。

右計算は左記の如き一位代価(或る標準量につき労務並に資材の所要量の価格)に拠り為されたものである。この場合標準量は立米である。

表〈省略〉

(2)  鉱石採取

期   施工数量   一立米当り差額 金額

第一期 二、三四四、八  二三円一〇    五四、一六四円八八

第二期 六、一四一、六 一二六、二〇   七七五、〇六九、九二

第三期 六、六二四、六 三四四、〇〇 二、二七八、八六二、四〇

第四期 七、五〇四、七 三七六、〇〇 二、八二一、七六七、二〇

計                 五、九二九、八六四、四〇

右計算は左記一位代価により為されたものである。

表〈省略〉

(ホ) 被告の施工計画変更による工事金の増加額は

表土除去 一、〇二一、三一八円五六

鉱石採取 五、九二九、八六四、四〇

合計  六、九五一、一八三、〇〇

である。

三、被告施設の改修遅延及故障に因る工事費増加

(イ) 本件工事請負契約書(甲第一号証の一)第六条により、天災地変、風水火災その他原告の責によらない事由などの不可抗力によつて、工事の進行に支障を生じたときは、原、被告協議の上出鉱量、契約単価の変更又は工期の変更をすることができるし、原告に損害が生じた場合は原、被告協議の上処置することが定められている。

(ロ) 本件原告の工事請負の範囲は、被告の指定する鉄鉱石採取の区域に於て、表土を除去し、鉄鉱石を採取して曾利滝(地名)貯鉱罎まで搬出することであり、被告は右貯鉱罎の鉱石を砕石機により精鉱し、曾利滝より小豆沢(地名)貯鉱罎まで索道輸送して国鉄小豆沢より貨車便には富士製鉄株式会社釜石工場へ積出すのである。

被告の精鉱設備や索道輸送装置等に故障を生ずるときは曾利滝貯鉱罎は満杯となり、原告は採取減産の止むなきに至り、労務手持ちを生じ、手持ち賃銀の支払を余儀なくされたのである。

(1)  被告の曾利滝、砕石機廻り、精鉱罎柱、小豆沢罎渠補強等施設の改、補修に因る工事金増加

月日 改補修内容 減産数量 立米当り単価 金額

二八年七月二日~二五日 板シユートをコンベヤーに改修 一八〇立米 三七四円九五 六七、四九一円

七月二八日、二九日 精鉱ビン柱補強 一〇〇 三七四、九五 三七、四九五

八月一日~四日 小豆沢ビン渠補強 二〇〇 三七四、九五 七四、九九〇

九月六日~八日 バースクリーン位置変更 一二五 四〇〇、二〇 五〇、〇二五

二九年四月三日 ベルトコンベアー修理 一五 四九九、七四 七、四九六

計 二三七、四九七

(2)  被告の輸車路設備遅延に因る工事金増加

表〈省略〉

(3)  被告の施設の故障に因る工事費増加

月日 事故内容 減産数量 単価 金額

二八年八月十四日 スクリーン六時間故障 二〇立米 三七四円九五 七、四九九円

八月十八日 クラツシヤー運転状態不良、九時~十八時 二〇 三七四、九五 七、四九九

十月十一日 小豆沢、曾利滝貯蔵ビン満杯 一〇〇 四〇〇、二〇 四〇、二〇〇

十二月二十七日~三十一日 第一区線ワイヤー脱落十六時運休 一〇〇 四八九、〇六 四八、九〇六

二九年一月五日、六日 スクリーンベンリング破損クラツシヤー運休 一〇〇 四八九、〇六 四八、九〇六

一月二十五日 索道のワイヤー脱落 一〇〇 四八九、〇六 四八、九〇六

合計 二〇一、九一六

(4)  前記 (1)  施設の改補修によるもの 二三七、四九七円

(2)  輸車路設備遅延によるもの 一、一六〇、六二〇円

(3)  施設の故障によるもの 二〇一、九一六円

合計 一、六〇〇、〇三三円

が被告施設の改修遅延及故障に因る工事費増加金額である。

四、既設運搬斜道の輸送制限に因る増加工事金

(イ) 本件工事請負契約書第六条に拠る

参照 第三項(イ)、

(ロ) 本件工事現場へ持込みの機械、資材の、県道現場間六〇〇米の運搬は、一切この斜道一線による外なく、被告並に大平索道、北興建設各社の諸機械が同時期にこれを利用せざるを得ない状態となり、これがため諸施設及び諸機械の据付が遅れ、延いては諸機械の運転開始時期の遅延を来したものである。一立米当りの遅延損害は

表〈省略〉

である。

昭和二十八年九月一日より十八日に至る間の機械掘予想出来高(生産量)は、一、八二〇立米であるから、

216円20×1820(立米)= 394,849円

が、既設運搬斜道の輸送路制限に因る増加工事金である。

五、不可抗力に因る増加工事金

(イ) 本件工事請負契約書第六条に拠る。

参照、第三項、(イ)

(ロ)(1)  昭和二十八年五月二十三日より三十一日に至る間、県道柳沢橋補修のため交通止となり、工事現場搬入機械は小豆沢駅にて荷卸、荷積の二重手間を要した。

その額は

人数  単価    金額

三二 四〇〇円 一二、八〇〇円

である。

(2)  送電線の故障にて停電となり、左記減産を生じた。

表〈省略〉

(3)  前記 (1)  一二、八〇〇円

(2)  九七、八一二円

合計 一一〇、六一二円

が不可抗力に因る増加工事金である。

六、其他の増加工事金

〈省略〉

第五準備書面

右当事者間の昭和二九年(ワ)第一〇五三三号工事金等請求事件につき原告は昭和三十三年五月八日附第四準備書面に継続して左記弁論を準備する。

第二、労銀物価の騰貴に因る本件増加工事金

一、本件工事請負契約書(甲第一号証の一)第三条により「……契約単価は契約の日より三ケ月間有効とし、物価労銀その他経済事情の変動により契約単価が不適当と認められる場合は、甲乙協議の上更改するものとする。」と定め経済事情の変動に因る工事金の変更を規定している。

二、工事金は直接工事費即ち役務費(労務賃銀)、資材費と間接工事費(本件の場合は現場経費)との合計であり各単位を計算して集積する。

本件工事請負契約は昭和二十七年十二月三日であり、当初の契約単価は三ケ月を経過し、労銀、物価の騰貴に因り不適当と認められたので工事金の変更を生ずるに至つた。

工事単価は、すべて当時且現場の実情に基くものである。

三、労務賃銀騰貴に因る工事費増加

(イ) 本件工事は表土除去と鉱石採取とより成るが、阿れも常務賃銀の騰貴に因り工事費が増加した。その単価変更を要すべき時期を四期に分け「第一期」は、昭和二十八年六、七、八月とし、「第二期」は昭和二十八年九、十月、十一月上旬とし、「第三期」は昭和二十八年十一月中旬、十二月、昭和二十九年一月とし、「第四期」は昭和二十九年二、三、四月とする。

(ロ) 鉱石採取につき

1 第一期、工事出来高二、三四四、八立米

表〈省略〉

2 第二期、工事出来高六、一四一、六立米

表〈省略〉

3 第三期、工事出来高 六、六二四、六立米

表〈省略〉

4 第四期、工事出来高 七、五〇四、七立米

表〈省略〉

5 変更工事費による増加額は

期別      増加額

第一期  一一四、七七七円九六

第二期  四五五、七〇六・七二

第三期  五四〇、二三六・一三

第四期  六七八、八〇〇・一一

総計 一、七八九、五二〇・九二

である。

(ハ)表土除去につき

1 第一期、工事出来高 七、三七〇立米

表〈省略〉

2 第二期、工事出来高 九九九、二立米

表〈省略〉

3 第三期、工事出来高 二、九八七、二立米

表〈省略〉

4 第四期、工事出来高 二、六二二、四立米

表〈省略〉

5 変更工事費による増加額は

期別     増加額

第一期 三四〇、八六二円五〇

第二期  六九、一九四、六〇

第三期 二三〇、〇一四、四〇

第四期 二二一、五九二、八〇

総計  八六一、六六四、三〇

である。

(ニ)労務賃銀騰貴に因る工事費増加額は

1 鉱石採取 一、七八九、五二〇円九二

2 表土除去   八六一、六六四、三〇

総計   二、六五一、一八五、二二

である。

四、労務物価の騰貴に伴う現場経費の増加は

現場経費は、社員給料、旅費、出張所経費、交際費、労災保険、運搬費、雑費の集積であるが、労銀、物価の騰貴の影響を受けたのは、右の内、社員給料と運搬費とである。

社員給料及び運搬費の増加額は

表〈省略〉

である。

五、労銀物価の騰貴に因る本件増加工事金は

(イ) 労務賃銀騰貴に因る工事費増加額 二、六五一、一八五円二二

(ロ) 現場経費の騰貴に因る工事費増加額 六九〇、〇〇〇円〇〇

総合計 三、三四一、一八五円〇〇

である。

釈明書

右当事者間の昭和二九年(ワ)第一、〇五三号工事金等請求事件につき原告は裁判所よりの釈明御下命に対し左記釈明します。

一、(イ)〈省略〉

(ロ) 〃

(ハ) 〃

(ニ) 〃

(ホ) 〃

二、(1)  原告は契約による施工計画に基き昭和二十八年四月より作業開始すべく必要な準備を整えて、現場に乗込んだところ、被告が、昭和二十八年三月末日までに完成すべき仮設建物の建設を遅滞しているのみならず、建設予定場所の整地すら為されていない実状を発見し、且、被告が当然完備して置くべき鉱石を出す設備も未完成である状況を知つたので、原告の高野宮川出張所長は、直に被告の柏原宮川鉱業所長及び田中鉱務課長に対し工事費変更の協議を申入れたが、被告の柏原所長及び田中課長は協議を回避した。

(2)  其の後原告側は、不便を忍んで漸く表土除去作業に入り、現場の状況を審さに実測したところ、契約第三条二但書「鉄鉱厚五米、表土厚壱米」という基準と著しい相違が認められたので、昭和二十八年五月、原告の高野所長より被告の柏原所長及び田中課長に対し、契約第三条二但書に基く単価変更の協議を申入れたが、被告の柏原所長及び田中課長は協議を回避した。

(3)  昭和二十八年七月十日、被告の萩原社長が、現場に出張して来られたので、原告の高野所長から、前記(1) (2) の工事費変更の協議を申入れたが、被告の萩原社長は回答を保留した。

(4)  昭和二十八年八月十六日、被告萩原社長が現場出張に際し、湯瀬温泉ホテルに於て工事に関する打合せがあつたとき、原告の高野所長から、工事費変更の協議を申入れたところ、被告の萩原社長は、数日後前記(2) の単価変更を為すことは承認したが、具体的協議は、なされなかつた。

(5)  原告高野所長は、被告の柏原所長等に対し、幾度となく前に申入れの工事費変更及び昭和二十八年八月以降契約第三条一の物価、労銀等、経済事情の変動による単価変更の協議申入をしたが回避せられた。

(6)  昭和二十八年十一月二十一日、原告本社の籾山営業部長代理及び仙台支店村上土本部長が現場に来たとき、被告の柏原所長等に、前の工事費変更協議申入れにつき協議の促進を申出たが、被告の柏原所長等は、更に協議に応じなかつた。

(7)  其の後原告の高野所長より被告の柏原所長等に対し、再三協議の促進を申入れたが、全く顧みられなかつた。

(8)  昭和二十九年三月三十一日、被告の萩原社長が、現場に来山し工事の打合せが為されたとき、原告の高野所長から、物価、労銀、経済事情の変動並に、特殊事情の発生を各項目毎に詳細に説明し、それぞれ工事費変更協議の申入れをしたところ、被告の萩原社長は、俄に、原告に対する工事請負契約を打切る如き提案をしたので、原告の高野所長は事態重大のため、問題を双方本社間の交渉に移すことを申出た、斯くして被告は、遂に工事費変更の協議に入らなかつた。

(9)  原告は野沢取締役及び村瀬理事を本社より現場に派して調査の上、被告の現場幹部及び本社幹部に、工事の継続及び単価変更の真に止むなき事由を説明したが、被告はこれに応ぜず、四月二十七日工事打切りにいたつた。

(10) 昭和二十九年五月十八日、原告は被告に「御願書」(甲第二号証)を提出して、工事費変更に関する詳細なる説明を為し、且つ、具体的に詳細な計算を提出し、図面等、必要な資料を添附提出した。

(11) 被告は右「御願書」を受取り、充分これを検討し得べき期間を経過したにも拘わらず、其後具体的に何等の異議も述べず、且反駁意見も出さず、又、反対資料をも提出しなかつた。

三、〈省略〉

四、 〃

五、 〃

六、 〃

補充釈明書

右当事者間の昭和二九年(ワ)第一、〇五三号工事金等請求事件について、原告は昭和三十五年三月二十六日附釈明書第五項及び第六項に関し、左記補充釈明します。

一、釈明書第五項の補充釈明。

〈省略〉

二、釈明書第六項の補充釈明

本件工事請負契約(甲第一号証の一乃至三)の規定するところにより、直接には、本件工事費には属せないが、本件工事請負契約の施行に伴い、その途中に於て、(1) 原告と被告との間に別途に約定し、(2) 被告が別に支払を承認し、又は(3) 被告の責に帰する事由により被告が別に支払うべき以上(1) 、(2) 、(3) の左記諸項目の支出は、本件工事請負契約に、間接的、附随的に、若干の関連があるというのみで、元来本件工事費ではないが、請求又は支払の便宜上「広義の工事金」なる名目の下に、本件工事金と共に、原告より、被告に対し、同時に請求したものである。

(イ) 原告第四準備書面、六、(ロ)、(2) の、被告の支障木伐採許可遅延による製材工手待費四一、三二五円

元来仮設建造物を完成することは、被告の義務であり、仮設建物の材料たるべき製材作業は、本件工事請負契約外であるが、被告は、昭和二十八年六月別途に原告と約定して、製材作業を請負わしめたが、製材材料である支障本伐採の許可を所轄営林署から受けることを遅延したため、原告に、右の手待損害を生ぜしめた。

これは別途契約に基く請求ではあるが、本件工事施行のための仮設建造物に関連があるので、便宜上本工事費に附随して同時に請求したのである。

(ロ) 原告第四準備書面六、(ロ)、(2) の原告が北興建設に貸付けた鉄製土運車破損修理費一六、五〇〇円

原告の本件工事施行の現場に隣接して北興建設が工事を施行していたが、土運車の不足により、被告から貸付けられたき旨の指示懇請があり、貸付土運車に破損を生じて修理を要し原告がその修理費用を立替えるに至つたところ、被告がその破損修理代の立替金を支払うことを承認したものである。

これは本件工事費とは関係が無いが、唯だ本件工事現場に隣接する工事現場の工事を本件工事と併行的に進行せしむべき被告の都合を利したものであり、被告の立替承認に基き、原告は本件工事費と共に便宜上附随的に同時に請求したものである。

(ハ) 原告第四準備書面六、(ロ)、(3) の倉庫内在庫品搬出費用一〇、二〇〇円。

機械器具、食料等を入れる倉庫は、仮設建造物の一部であり、被告がこれを施設して、原告の使用に供すべき約定に基き、原告使用中の倉庫を、昭和二十九年一月、被告の都合により、急に明渡を求めたことにより、在庫品搬出に要した費用は、被告の責に帰すべき事由により、条理上被告が支払うべきものである。併し、この費用は、本件工事費とは関係なく、唯だ本件工事施行に必要な仮設建造物の一部に生じたという範囲で本件工事に若干の間接的関連があるに過ぎないが原告は便宜上工事金と共に、附随的に同時に請求したのである。

(ニ) 原告第四準備書面、六、(ロ)、(4) の雪除工(スノウセツト)架設手間一式三四、二五〇円

雪除工の架設は、本件工事外であるが、冬期間鉱石を採取する区域に、吹雪溜りが生ずることを防止して、本件工事の進行を図るため必要な施設で、被告は昭和二十八年十一月、この設置を別途に約定し、この約定に基いて原告が雪除工を架設した費用(附随工事請負報酬)である。

これは本件工事金ではないが、本件工事に関連した別途の工事金であるから、原告は、本件工事金と共に便宜上附随的に同時に、請求したのである。

(ホ) 原告第四準備書面六、(ロ)、(5) の転石除去費一九三、一五〇円

現場に在る転石の除去費で、本件工事請負契約外であるが、本件工事の進行上必要のもので、この除去費は被告が別途に支払を承認したものであり、(昭和二十八年十月以降の分は被告より原告に支払済である。)原告は昭和二十八年七月より九月に至る未払分を本件工事費と共に、便宜上附随的に同時に請求したものである。

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